党勢背景に無党派を狙う

神戸新聞 2007/07/21   

 

   「宙に浮いた五千万件は民主党の追及がなければ闇に葬られていたはずだ」

 兵庫選挙区で二期目を狙う民主現職の辻泰弘(51)が力を込めた。二十日朝、宝塚市内。「あなたの年金を守る」と刷り込んだのぼりが後にはためく。

 「年金選挙」と呼ばれる今回の参院選。民主はここぞとばかり、逆風にさらされた自民党を攻め立てる。

 公示四日目の十五日夕。神戸市内の演説会では「年金、医療、労働法制の専門家」と紹介され、辻が壇上に上がった。

 「本人が年金を納めていても、勤務先の事業所が払っていないケースがある。救済を求める私の質問に大臣は『できない』と答えたが、選挙目前になって『やる』と言い出した。それが今の政府の体質だ」

 一期目の任期六年間のうち約五年、参院厚生労働委員会に所属した辻。質問は五十二回に上り、年金関連だけで四十回を超えた。まさに「得意技」で挑む選挙戦だ。

 

 参院での与野党逆転を目指す民主。党代表の小沢一郎(65)が「政界引退」をかけて臨む戦いで、今、県連幹部が警戒するのが、上げ潮ムードで生じる「油断」だ。

 辻の選挙カーに積んだ政策ビラが、配り切れずに事務所へ戻ってきたことがあった。「現場での動きが鈍すぎる」。県連は県内の全十二総支部の責任者を二十二日に緊急招集することを決め、十八日、ファクスで通知した。

 「中央からの来援があれば、もっと引き締まるのだが」。県連幹事長の杉尾良文(55)がこぼす。党首級の来援は今回ゼロ。「国政選挙では前代未聞」と杉尾も言う。

 党は、全国に二十九ある改選一人区を「関ケ原」と位置付け、小沢ら幹部を入れ替わり投入。あおりで、兵庫など複数区には「自力で乗り越えろ」と指令が出た。

 過去最多の県内九十一万票を獲得した二〇〇四年参院選では、公示直後に当時の代表岡田克也(54)が兵庫入り。羽田孜(71)、前原誠司(45)も姿を見せた。辻が初当選した〇一年も、当時代表の鳩山由紀夫(60)が何度も応援に駆け付けた。

 それが今回は様変わり。県連顧問を務める党政調会長松本剛明(48)=比例近畿=でさえ、辻の出陣式を欠席。一人区の香川選挙区を優先した。

 「全国の戦いが盛り上がれば盛り上がるほど、兵庫は盛り下がる」。陣営の最大の悩みだ。

 

 上向く党勢などを背景に、民主県連は、今回の選挙区の戦いを「政党主導」に切り替えた。「連合におんぶにだっこ」と批判されてきた選挙方式を転換。労働組合の組織票だけでなく、広範な無党派層を手中に収める算段だ。

 従来、国政選挙で一緒に設けていた「合同選対」を党と連合で分離。同様の方式を取り入れるのは、全国で八組織だけだ。

 辻が労組出身でないことも、選対分離の一因となり、連合側にも、労組ごとに抱える「比例候補の応援に集中したい」という事情があった。

 政局に直結する雲行きの参院選で、百万票を目標に掲げる辻陣営。過半数をめぐる攻防の行方に、有権者の視線が集まる。